6月2日(土)
GW中に読んでいたのに、感想を書くのをほっといてしまった。週刊新潮6月7日号 で、福田和也氏が本書を「闘う時評」で取り上げているのを読んで、ようやく書く気になった次第。
失笑を承知で言うと、この本の企画を知った時、僕は「やられた」と思ったのです。星新一氏が父・一氏やその周囲の人物を描いた作品群を読むと、明治から昭和初期にあった一つの時代の色が浮かぶように、星新一氏自身の評伝を書けば、戦中期から高度成長期にかけての日本が描けるんじゃないかと、かねて思っていたのです。ちょうど、野口悠紀雄氏が主張する「1940年体制」が順調に作用していた時代と重なり、ショートショートやSFの成長と対比したら面白いのでは、と。
勝手な思い込みを奪い取られた?嫉妬心を抱えつつ、本書を読み終えた時に感じたのは、やはり「やられた」という思い。今度は「失敗した」ではなく「脱帽」の方の意味です。丹念な取材ぶりや仕事に対する謙虚な姿勢、気品を保った文章、その辺りは、福田氏をはじめとする書評で触れられている通りです。
本書には新事実が盛り沢山なのですが、個人的に「へぇ」度が高かったのは「司馬遼太郎氏と親交があった」「『連想ゲーム』でレギュラー回答者だった」など。
税込み2520円と、ちょっと値が張るので、売れ行きがどの程度なのかわかりません。しかし、出版直後に偶然ながら、見る人が見れば星新一氏につながっていく出来事についての報道があったことは、何だか謎解きめいていて面白かった。
一つは週刊新潮5月3・10日号にあった「『アッコちゃんの時代』モデル女性15年目の『離婚』」。「アッコちゃん」の離婚相手とは、飯倉のレストラン「キャンティ」のオーナー、川添象郎氏。川添氏は風吹ジュンの夫だったが、アッコちゃんに子供ができたため、風吹ジュンと離婚してアッコちゃんと結婚。それが今度は別の女性との間に子供ができて、アッコちゃんは離婚の憂き目に。しっちゃかめっちゃかなこの川添氏、何と後藤象二郎の曾孫とのこと。書いた記者は知らないようだけど、星新一氏が「明治の人物誌」で取り上げた後藤猛太郎(=象二郎の嫡男)の物語を読めば、「血は争えない」と嘆息せざるを得ず、その結末に登場する「象二郎の孫がやっている六本木のレストラン」が「キャンティ」だとわかる。本書にもSF作家仲間同士、キャンティでピザの大食い競争に興じたとのくだりがあった。
もう一つは、NHK「その時、歴史が動いた」で江戸川乱歩を取り上げた回が放映されたこと。晩年の乱歩が後進を引き立てることに力を注いだことが紹介されていたが、星新一氏もその一人だったことは本書に詳しい。ただ、残念ながらNHKの番組では星新一の名前は出てこなかった。
司馬遼太郎氏は晩年、「国民作家」と呼ばれるようになりました。具体的に意味するところがよくわからない敬称ながら、その曖昧さが司馬氏には確かに合っていると思います。僕は、星新一氏も「国民作家」がふさわしいと思うのですが、どうでしょうか。
(写真は、咲き始めた紫陽花@椿山荘庭園)
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